メールで特許や商標の相談を受けているのですが、小企業経営者の方から
「これから開始する自社のサービスの名称を商標登録したいがどうすればよ
いか?」というご質問がありました。
商標登録は先願主義、つまり「早い者勝ち」ですので自分より先に同一又
は類似の商標を出願している人がいれば登録を受けることができません。
そこで、特許庁ホームページの特許電子図書館(IPDL)を使って、既
に他の人が商標登録を受けたり出願をしたりしていないか調査するようアド
バイスしました。(ちなみにIPDLを使えば無料で商標調査をすることが
できます。)
すると翌日 その方から「調査したら同じサービスについてよく似た商標
が登録されていた」と相談メールが送られてきました。見てみると殆ど同一
の商標で、今から出願しても登録を受けられないことが明らかでした。
そこで、
(1) 出願しても権利化は極めて困難であること。
(2) そのサービス名を使われると権利者から権利侵害で訴えられる可能性が
あること。
(3) できればサービスの名称変更を検討されてはどうか。
というアドバイスをしました。
すると今度は、
「出願はあきらめたけれど、別に訴えられなければ問題ないと思うので、そ
のサービス名でやろうと思います。気に入った名称ですので。もし、権利者
が訴えてきたらどうしたらいいですか?」
という 脳天気なメールが送られてきました。
このような場合どうなるかというと、訴えられたら確実に負ける内容なの
で、
(1) 差止に応じる必要がある。つまりそれ以降、その名称は使えない。
(2) 損害賠償に応じる必要がある。場合によってはかなり高額。
(3) 侵害罪として懲役又は罰金を受けることもある。つまり前科が付く。
(4) 会社の信頼を失うことにもなりかねないし、少なくともそれまで築き上
げたサービスについてのブランドも一瞬に無くなる。
(5) 別の名称に変更するにしてもカタログ,看板などの変更が必要となり費
用がかかる。
(6) 訴訟のための弁護士費用もかかる。
等のリスクがあることを説明しました。
そして更に
「地雷原を目をつむって走り抜けるようなものです。地雷を踏まなければ
ラッキーですが、踏んだらダメージは大きいですよ。それでも行かれるなら
止めませんが・・」とリスクの大きさをイメージで伝えました。
☆ ☆
経営者はリスク管理も十分に考えるべきであるのに小企業さんは一般に
「知的財産権」という地雷を軽視している傾向があるように思います。
今回の場合、まだサービスを開始しておらず名称の変更が可能な段階です。
つまり、幾らでも地雷原を回避できるのに「気に入っている」というだけで
あえてリスクを取られる考え方がよくわかりません。
どうしてもその名称が使いたければ予め権利者と交渉して使用権の許諾を
お願いするか権利の譲渡を受けるという手段も有ります。それを根拠もなく
「訴えられなければ・・」と言われる感覚にはついていけませんでした。
まあ、1度踏んで痛い目に遭えば学習できると思うのですが、1発で会社
が「サヨウナラ」になるケースも多いのでその場合は学習が活かせませんね
(^^;)。
ちなみに、「権利者から文句を言われれば、その時に使用権を許諾しても
らえばいいや」という考え方をされる方もおられます。でも使用権を許諾す
るか否かは権利者が好きに決めることであり、必ずしも許諾を受けられるわ
けではないです。自社ブランドを守るという意味で、他人に使用許諾をする
ことは少ないことも覚えておかれると良いと思います。
☆ ☆
尚、本文中で「地雷」という「たとえ」を使いましたが、私は実際の兵器
である地雷について賛成も反対もするつもりはありません。読まれた方によ
っては「卑劣な兵器にたとえるなんて不謹慎である」と怒られるかもしれま
せんが、一番イメージしやすいという点でこのような表現をさせていただい
たことを御了承下さい。他意はございません。
もし、地雷で負傷された方や地雷撲滅運動の方が読まれて気を悪くされた
らお詫びします。 ごめんなさい。
|
|