さかな  わかっちゃう  知的財産用語
特許,商標,著作権 等に関する用語辞典 
さかな


クロスライセンス


 クロスライセンスとは、

 特許権者同士が互いに相手に特許発明の実施許諾をすることです。


 特許発明(特許を受けている発明)を実施(製造,販売など)したい場合には、特許権者に実施許諾してもらう(ライセンスを受ける)必要があります。


 実施許諾を受ける際には通常は実施を希望する者が特許権者に対して「実施料」を支払います(無償の実施許諾もありますが、多くの場合は有償です)。


 ところで2人の特許権者がおり、互いに相手の持っている特許発明を実施したい場合があります。


 例えば、Aさんが発明(「発明a」とします)について特許権を持っていて、Bさんが発明(「発明b」とします)について特許を持っていたとします。
 そしてAさんは「発明b」を実施したいと思い、Bさんは「発明a」を実施したいとします。

 この場合、AさんはBさんから発明bの実施許諾をしてもらって、それに伴う実施料をBさんに支払います。一方、BさんはAさんから発明aの実施許諾をしてもらって、それに伴う実施料をAさんに支払います。


 つまりAさんとBさんは互いに実施料を払い合っていることになります。


 これはこれで全く問題ないのですが、お互いに払い合うのなら契約も1つにまとめて実施料も相殺(そうさい)すればよかろうということでクロスライセンスの契約をすることがあります。


 かなり大雑把な例えになってしまいますが、物の「交換」をイメージしていただくと理解しやすいかもしれません。


 以上は概念的な話しですが、実際には一方が侵害の警告をし、警告を受けた方が実施料を払う代わりに自分の特許とのクロスライセンスの話しを持ちかけることが多いように思います。


 私は経理マンではないので詳しいことは知りませんが、互いに実施料を払い合う場合と比較して「お金を動かさない」ということで税金や振込手数料などの点でもメリットがあるのではないかと思います。


            *                      *


[関連事項と経験談]

 (1) Aさんの「発明a」が基本的な発明であって、Bさんの「発明b」が発明aの改良発明であるような場合、Bさんが自分の特許発明である「発明b」を実施しようとすると必然的に「発明a」の実施にもなってしまう場合があります(このよう場合、発明bは発明aの「利用発明」と呼ばれます)。


 この場合、Bさんは「発明b」の実施をするために「発明a」の実施許諾が必要となります。また、Aさんが改良発明bを実施したい場合は「発明b」の実施許諾が必要となります。

 そのような場合、クロスライセンスして双方が改良発明である「発明b」を実施できるようにすることがあります。

 利用発明についてはまた別の機会に説明したいと思います。


(2) それぞれが自分の持っている1件の特許権について実施許諾をする1対1のでクロスライセンスというのがイメージしやすいと思いますが、私の経験した範囲では「1対複数」、例えば「1対5」とか「2対8」のように件数が異なるクロスライセンスも多かったです。


 発明の価値が違う場合、1対1では価値が釣り合わずに一方だけが損になることがあるからです。


 他人と物を交換するときのことをイメージしてみてください。

 自分の持っている「チョコレート」と、相手の持っているお菓子を交換したいとき、相手の「ガム」だけと交換するのは損なのでイヤだけど、相手の「ガムとキャラメル」の2つとなら交換しても良いとようなことがありますね。

 私も企業の特許部門で働いていたときにクロスラスセンスの契約は何回も経験しましたが、1対1よりも1対複数のクロスライセンスの方が多かったように思います。


 こちらに弱みがあるとき(つまり相手の特許権の価値が大きい場合や、こちらが特許権侵害として訴えられそうなとき)は交渉時に相手から「1対1では釣り合わないのでこれ(別の特許)も付けて」といわれたり、「貴社には特にこちらが求める特許はありませんが、まあ古くからのお付き合い言うこともあるので、コレとコレとコレとコレとコレで我慢しましょう」なんて偉そうに言われて頭にきたことが何回かありました。

(逆の立場の場合もあったのでお互い様ですが、「やられたこと」の方が記憶に残りますね。)



(3)互いに実施許諾するということで、実施料も相殺して互いに払わないことも多いですが、許諾する発明の価値が異なるような場合には、実施料が等価とならないので実施料の差額をつけたクロスライセンスをすることもあります。


 例えば片方の特許の実施料が1000万円相当、他方の実施料が300万円相当とすると、「実施料700万円(差額)」なんていうクロスライセンスもする事があります。


(3) ライバル社の特許発明を実施したい場合には、自社特許がクロスライセンスの材料として利用できます。その意味で、たくさん特許を持っていると交渉時に便利です。




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